調律師を紹介するページです(2009,1,15更新)
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       ピアノ調律のお問い合わせ  


調律師 プロフィール      調律師のブログにリンク

中学入学と同時にピアノの勉強を独学で始める。

高校時代は毎日6時間のピアノ練習をする。

医学部を休学し 日本楽器調律技術養成所に入る。

同養成所卒業間近  ワイセンベルクのコンサートのピアノの音色に魅せられ  その調律師に弟子入り 

(杵淵ピアノ入社)  NHKや桐朋学園、都内の各ホールの調律をする。

1981年4月 独立  真のピアノ調律の研究を始める。


         調律案内

ピアノは オリジナルが 最高です。

ピアノは 完全調律管理により 最高の状態で寿命まで楽しめます。


完全調律管理

調律作業は 160工程以上あります。一度の調律で完全な状態にすることは出来ません!

定期的に調律することで 完全な状態に近付きます。

ピアノは 不完全な調律では傷みます。傷んだピアノは性能も落ちています。多少傷んでも調律で回復します。ピアノは、オリジナルを維持して下さい!


ピアノの寿命

スタインウェイピアノが完成したのは1927年頃です。しかし、その頃は調律技術が無く、完全状態のピアノは残っていません! 性能は落ちますが、傷んだ部品を交換すれば、使えます。

40~50年前のピアノは、修理することなく、オリジナルをまだまだ維持できます。ピアノの寿命は80年以上と思われます。


修理

メーカーによる欠陥部品は 調律時間内に必要分を交換して行きます。 修理したピアノがオリジナルを越すことはありません! ハンマー部品等が 年々粗悪化しているからです。しかし、必要なら修理しましょう。

         お問い合わせ

                 

             はじめに

この書は、世の中から弾き難い(辛い)ピアノを無くす為に書いています。弾き易いピアノは、消耗も少なく、長持ちします。

調律師達が、手を抜かず、本当の仕事をして呉れることを願います。  そして、製造メーカーには、人工皮革等を使わない良い製品を作って貰いたいと願います。        

         真の調律

(1) 完全調律管理

ピアノは消耗品ですが、調律により  傷みを最小限に抑えることが出来ます。このような完全調律管理が出来ていれば、一般家庭や一般ホールの40~50年前のピアノは、修理することなく、現役で最高の状態を今も保って居る筈です。  …現役を退いた40年前の調子を崩したスタインウェイDモデル(コンサートピアノ)を引き取り、調律のみにより  何処まで回復するか検証しました。1968年製Dモデルは、無闇な整音やハンマー整形により  ハンマーの残量6割弱でしたが、弾き込みと調律により  完全状態の9割近くまで回復しました。このピアノは始めから完全調律管理されていれば、今も現役で完全状態を保っていると確信できます。

(2)完全調律管理

調律には、消耗を抑える摩擦処理と調子を整える 調律 整調 整音 の4作業があります。消耗した部品を交換したり、調子を崩した部品を交換する修理がありますが、ここでは完全調律管理故に修理は発生しないものとして話を進めます。  摩擦処理について  摩擦は、アクション部とペダル機構とボディーの蝶番やキャスター  譜面台  椅子等に発生します。摩擦箇所各所の大半は、摩擦を下げてやれば、傷みは進みません!  アクション部に限っては、各所に消耗しない範囲内で丁度良い摩擦が必要です。詳しくはタッチ調整でお話します。

(3)摩擦について

摩擦箇所は、金属と金属  金属とクロス  金属と木部  木部とクロス  木部と皮革等に分けられます。また、鍵盤とピアニストの指も重要な調整ポイントです。

(4)摩擦の発生

摩擦は、潤滑剤切れや湿度の高い環境の中で使用されるピアノに発生します。

ヨーロッパでは、低湿度の為、放置されたピアノでも摩擦が付きにくいようです。

(5)摩擦に因る消耗

  鍵盤

鍵盤には、摩擦箇所が、鍵盤上面、鍵盤側面、鍵盤ガイド、鍵盤バランス、鍵盤バランスホール等にあります。ピアノがガタになる代表的な箇所は、鍵盤ガイドピンとガイドブッシングクロスの摩擦で、放置されると2~3年で、鍵盤の隣同士が当たるくらい横ブレが出ます。これは、ピアノを弾き、鍵盤が下に下がる時、鍵盤のガイドブッシングクロスが、ガイドピンに接触する時、発生した摩擦により、ブッシングクロスが、ガイドピンによって削られます。象牙鍵盤の消耗も鍵盤上面とピアニストの指との摩擦で起こります。

象牙鍵盤は、こまめに拭いて下さい。消耗しません!

(6)ハンマーの消耗 

ピアノの部品中でハンマーは唯一の完全消耗品です。しかし、ハンマーは通常使用では、それ程消耗しません!ハンマーを消耗させるのは調律師です。    毎日10時間以上弾いた、あるピアニストの例をお話しましょう。  20年間で象牙鍵盤が消耗し、鍵盤の下地が出ました。これは、仕方ありません! 鍵盤を拭く時間も惜しまれ、ピアノを練習されました。調律は年3回の完全調律でした。ハンマーフェルトの消耗は1番多い次高音で残り4割でした。まだ、使えます。タッチ的には8割消耗が限界です。この当時のハンマーヘッドは大きく、5割消耗までは、返って弾き易くなります。それ以上は、タッチが軽くなって行きます。  シャンクローラーも、ハンマーヘッドの消耗と同じように限界があります。

鍵盤のブッシングクロスは、潤滑処理により消耗しにくくなりますが、やはり、ハンマーヘッドの消耗と同じように限界があります。…では、この当時のハンマーヘッドの寿命は、毎日10時間以上弾き込まれ、8割消耗に費やす時間は40年です。 通常使用なら、100年以上使えることになります。 (注意)現行ピアノのハンマーは小さい!

(7)適湿について

ピアノは湿気も乾燥し過ぎも駄目です。ピアノは湿度40~50%が適当と思います。

湿度管理は調律よりも大切です。湿度管理が良ければピアノは傷みません!  ピアノはアクションに付く摩擦で傷むのです。

摩擦が付いたまま弾き込まれた  あるピアノ教師の例をお話しましょう。 2年でスタインウェイBを弾き潰したと言うのです。この先生には中古スタインウェイBを買って頂きました。その2年前に新品で買ったスタインウェイBと交換したいと言う事です。大手ピアノ屋は、このBモデルの持ち主に販売した時点で、5年後に60万円でオーバーホールの話を持ちかけています。引き取ったスタインウェイBは、別の先生にそのまま買って頂きました。ガタガタは、直ぐに調整できました。ピアノは修理無しで、ある程度のガタを調整できるのです。でも、ガタにしない事が最良です! 音質調整は時間が掛かります。整音ミスは調律だけでは治せません! 弾き込みが必要です! ピアノは整音ミスとタッチのガタガタで、弾き潰した様に感じます。ピアニストは、ピアノを何台弾き潰したとよく自慢されますね。実はピアノは潰れていません! 

ある国立大学教育学部音楽科のピアノ管理を3年間任された時の話をしましょう。ピアノは大学内に約70台ありました。それらのピアノの状態はメチャクチャでした。特に練習室のアップライトピアノは、車で言うと  スクラップ工場に野積されている状態で、鍵盤は隣に当たる!ハンマーは隣の弦を打つ!文字通りのガタガタです。大学に聞くと  毎年、年2回の調律をしているとのことです。あるメーカー支社の調律師達の仕業です。買い替え促進で調律技術が無いのか!?  これが、世間一般なのでしょう。  これらのピアノは、1台当たり5時間の調律で復帰しました。ここまでガタになってもピアノは調整できるのです。しかし、家庭に眠っている同じ型のピアノと比べると  家庭のは新品同様、寧ろ、現行ピアノより良くなります!  大学のは、しゃがれています。問題無く使えますが、性能は半分以下に落ちます。ここまで傷めると、オーバーホール(部品交換)した方が良くなります!  買い替えるのではなく、オーバーホールして使うべきです。オーバーホールして性能落ちしても  現行ピアノより上です!


(8)弦の寿命

巻き線(バス弦)

1968年製スタインウェイDモデルのバス弦は、20音で、1本弦8音 2本弦5音 3本弦7音の計39本有ります。この39本中1本に歪みが出ていました。これは、巻き線製作のミスです。

芯線(中音から高音弦)ピッチ442Hzで 40年経過していますが、全く問題ありません!

ピッチ(音の高さ)

絶対音の高さである標準ピッチは 440Hzですが、日本のコンサートホールでは 442Hzがいつの間にか主流になっています。

しかし440Hzと442Hzでは、弦の寿命が3倍違うのです。差し支えなければピアノは 440Hzをお勧めします。

(9)史上最高のピアノ

40~50年前のスタインウェイDモデルが完全調律管理されていれば、間違いなく史上最高です。それと比較し、同スタインウェイ社の現行Dモデルは足下にも及ばない、つまらないピアノになりました。完全調律管理(1)で紹介した1968年製Dモデルは、9割位の回復で、最高時の7割位の性能と思われます。もう少し良くなりそうですが、私が見てきた史上最高に近い状態です。…残念です! このDモデルは 不必要なハンマー整形と整音ミスにより3割劣化しています。 もし、このDモデルに現行スタインウェイDモデルのハンマーを付けて、完璧な整音をしたとすると…  今までの経験から、5割しか性能発揮しないのです。 現状より更に落ちます! これは、ハンマーが小さくなった為に深みの音が薄くなるのです。

ピアノの音は  ハンマーが命です!  スタインウェイ社は、何故、当時のハンマーを供給してくれないのか?  現行ピアノのボディーには現行ハンマーが合っています。 やはり、ボディーに合ったハンマーを付けなければ、良い音は望めません!

(10)深みの音

音に深みが有ってこそ  ピアノは最高の音です。  深みの音は、弦の長さに対する  ハンマーフェルトの質量と丁寧な整音によって生まれます。  完全調律管理(1)で紹介したスタインウェイDモデルの4割消耗したハンマーヘッドよりも  現行Dモデルのハンマーヘッドは更に小さくなりました。  現行スタインウェイDモデルは、ハンマーフェルトの質量が減ったから  深みの音が薄くなったのです。  スタインウェイ社の意図は聞いて居ませんが、ハンブルクのスタインウェイ社営業マンやハンブルクの代表調律師は、「ホールのピアノを3年で入れ替えろ!」と言ってます。 日本は、備品の原価償却対応年数がピアノの場合5年です。3年は無理にしても5年で入れ替えろと言うことなのでしょう。  2007年9月に  あるホールのDモデルのハンマーを現行ハンマーに交換し、全くハンマー整形無しで丁寧に4ヶ月掛けて整音しました。このハンマーで最高の状態になるまでに4ヶ月掛かりました。このホールのこのピアノは、使用量が激しいから、4ヶ月で最高状態になった訳です。そして、やはり、このピアノ新品時の5割程  性能落ちしています。現行ピアノは、1回のハンマー整形(約10%)をする毎に1割  深みの音を失います。 日本の代表は「スタインウェイDモデルは5年で経たる!」と言いってます。確かに経たります。現実に5年置きに買い替えている日本を代表するホールがあります。 原因は、年に2回  ホールを閉鎖して3日間のメンテナンスを行ってます。半年置きにハンマー整形をしているのです。5年間で9回のメンテナンスを受けます。 経たるのは、当然でしょう。  メンテナンスの内容に間違いが有るのです。また、現行ピアノのハンマーも小さくなったせいです。

ロンドンのスタインウェイ支社の貸し出しピアノは2年でハンマー交換するそうです。  貸し出し毎にハンマー整形をして  整音をやり直すそうです。  ロンドン市内のあるホールをピアノ調律中に見学させて貰った時のこと…   ホールの客席の中央辺りで良い音と感じて、ステージに近づきました。音はこもってモコモコなのです。 …何と、ロンドンのコンサートホールには、これで丁度良いのです!

(11)史上最高のピアノを求めて

史上最高のピアノとは、どのような音なのでしょう?  私もお目に掛かっていません!  世の中の大半のピアノは 性能を発揮していません!  調整が完全ならば、5年で性能落ち等しません!   世の中の最高が、本物の7割位の性能と思われます。

関西に私よりもスタインウェイに精通した方が居ます。彼は「ニューヨーク・スタインウェイの1890~1970年に製造された物が良い!」と言ってます。…確かにホロヴィッツが使用していたピアノ2台があります。その内の1台を調律師のモアさんがホロヴィッツの死後  最初に日本に持ち込んだピアノは、音のレンジが広くppp~fffが楽に出せる楽器でした。  それは、ホロヴィッツが実際にコンサートに使用した時の状態より良いと感じました。  新しいハンマーに交換され、 整音され、程よく弾き込まれ、世の中の最高に近いと感じました。前記に紹介した自宅にある1968年製Dと同じ位です。

そう言えば、ニューヨーク・スタインウェイ社は、1930年製の部品を供給してくれました。現在のニューヨーク・スタインウェイ社のハンマーは、品質が落ちて無いのでしょうか? 

2007年秋にスタインウェイ社は、ホロヴィッツのピアノの1台を整備し直し日本に持ち込みました。ご存知の方もいらっしゃると思います。このピアノを私の優秀な知人2名が、1人は試弾、 1人はコンサート(デモンストレーション)に…   この時のピアノを弾いた2名から、感想を貰いました。それを紹介しましょう。

1人目「ホロヴィッツのピアノを弾きました。ハンマーヘッドが化学接着剤で交換されています。またアクリル鍵盤に変わっています。全体に音が詰まる傾向です。ハンブルク製の1960年代の音の方が良いですね。タッチにストンの傾向がありました。調律もフラットです。」

2人目「おはようございます。ホロヴィッツのピアノを弾いたときの感想は、彼が弾いたピアノの外装で弦までは そのままだろうけれど その外は全て換えてあると思いました。先ず、フォルテシモが出せない! スタインウェイ独特の響きが無い! 弾いた雨だれのプレリュードのような前半はまだ良かったのですが、何せパワーが無い! 鳴らせられない! どう弾いても音が引き出せない! このピアノの状態でホロヴィッツに弾かせたら弾かないと思います。   3日掛けて調律師がホロヴィッツと同じ調整をしたと説明がありました。きっと***さんが以前に弾いたピアノの状態とは かなり差があると思います。日本をバカにしてる? これがホロヴィッツのピアノと言うと信じて喜ぶと思った? 何て思ってしまいました。仕事の参考には全然なりません! 残念です!」  …ニューヨーク・スタインウェイ社のハンマーの品質が落ちたのかも知れません!?  私は見て居ません!  今度、来日したら、見に行かなければ!  …実は、最初に私が見たホロヴィッツのピアノは、ニューヨークの女性調律師が買い取り、現在、1億2千万円の値が付いていると言う噂です。もう1台の方が、ニューヨーク・スタインウェイ社に残って居るようです。  ピアノは、弾き込みと丁寧な整音で良くなります。3日で仕上がるわけがありません!

(12)タッチのストンについて

友人が、ホロヴィッツのピアノ試弾会に参加した時の感想に「タッチにストンの傾向」と、ありました。このストンは調整不良です。タッチのストンは、ハンマーシャンクローラー周辺の問題です。また、ローラーの消耗により、ストンになって行きます。ローラーが人工皮革の場合、タッチがストンです。これは論外です!  最も重要な箇所を人工皮革にする2流メーカーもあります。…ローラーが新しい内は、ストンになりません!  タッチが軽いのとストンとは違います。調整不良のアップライトのタッチがストン傾向にあります。ピアノのタッチがストンでは、ホロヴィッツでも弾きにくい筈です。微妙なpp~mp辺りの音のコントロールが難しくなります。タッチが、軽いから→重いタッチについては、調整ではなく、修理になります。ホロヴィッツのピアノは消耗した小さいハンマーで戻りの良い軽めの設定です。タッチの重さは、ハンマー交換修理をした際に設定し直します。

ハンブルク・スタインウェイ現行ピアノのタッチは以前より軽い!  ハンマーヘッドが小さくなりタッチが新品時に丁度良くなりました。…どの位小さくなったのでしょう。あるホールの1988年ハンブルク製Dモデルを現行Dモデルのハンマーに交換修理した時のことをお話しましょう。  ハンマーは、様々な調律師達により整形され、小さくなって行き、同時にタッチは軽くなって行きます。タッチが軽くなると  鍵盤重量調整をします。鍵盤に埋め込まれている鉛を削るのです。ハンマーを整形して行くと鍵盤重量が軽くなり、反対に鍵盤の戻りが悪くなって行きます。そもそも鍵盤鉛は、鍵盤を下に下げる助けをしているのです。ハンマーヘッドがハンマー整形され小さく(軽く)なると  鉛が不要になって行きます。ここで初めて、鍵盤鉛を削り、鍵盤ダウンウエイトの微調整をします。ハンブルクの代表調律師は、鍵盤のバランスピン側の鉛から削ると言ってますが、これは、バランスピンの外側の鉛から削るのが正解です。バランスピンに近い内側だと、沢山の量の鉛を削らなければなりません!元の1988年製Dモデルのハンマ

ーは、ホールで、6割消耗まで、使用しました。残り4割で、まだ使えます。この状態がホロヴィッツの設定です。鍵盤ダウンウエイト47gでアップウエイト30gです。…ストンではありませんが、一般には軽過ぎますね。このホールのオーナーと相談して交換修理することになりました。ホロヴィッツのピアノは、1988年製Dモデルだと6割消耗で、鍵盤鉛をバランスピンから1番遠い外側の一列を全て抜き取った設定です。そして、このまま現行ハンマーに替え、鍵盤重量調整不要でした。ハンマー交換後、鍵盤ダウンウエイトは50gです。 そして、鍵盤に一列、鉛の穴が空いたままです。内側の鉛を抜くと穴が2~3つになります。鍵盤が穴だらけになります。ハンブルクの調律師の鉛の抜き方がストン傾向に近付き、それは間違いと言うことです。  鍵盤には鉛が残っている方が弾き易いと思います。さて、先程、鍵盤アップウエイト30gと 紹介しました。これは、弾き込みにより、ハンマーシャンクローラーも消耗し、滑りが良くなった為です。アップウエイト30gは 鍵盤戻りの限界です。これ以上鍵盤ダウンウエイ

トを重くするとアップウエイトが更に大きくなります。アップウエイトが大き過ぎると  鍵盤が下から突き上げて来ます。これも弾き辛くなります。このハンマーは、ハンマーシャンクローラーごと交換しました。ローラーが新しくなり、タッチに粘りも戻り現行新品とほぼ同じタッチです。現行新品ハンマーは、1988年製Dモデルの6割消耗とほぼ同じ重さでした。

(13)フォルテシモについて

もう1人の友人が、ホロヴィッツのピアノを弾いた時の感想に「フォルテシモが出せない!」と、ありました。これについて検証してみましょう。  フォルテシモが出せないピアノは、ハンマーに問題があるのです。ピアノの音は、ピアノの弦を振動させることによって出ます。弦が強く振動すれば大きな音が出ます。弱い振動では小さな音になります。このように、弦を振動させるハンマーの状態に左右されるのです。…腕の力を抜き、腕の重さを 100%鍵盤の上に落とすとフォルテシモが出るのが、最良のピアノです。…では、ホロヴィッツのピアノに何が起こって居たのでしょう。ハンマーフェルトが軟らかいのです。逆にハンマーフェルトが軟らかくないとピアニシモが出ません!  例えば、硬い石で弦を打つと割れるような音が出ます。軟らかいスポンジで弦を打つと音が殆ど出ません!要するに丁度良い硬さのハンマーフェルトで弦を打つから良い音が出るのです。  ニューヨーク・スタインウェイのハンマーは製造された時には軟らかく  ピアノに取り付けた後  硬化剤をかけ  ハンマーフェルトを硬くするのです。そして、硬化

剤が完全に乾いてから、表面を軟らかくします。  そうです。ホロヴィッツのピアノは、ハンマーを取り付けただけで、整音作業を全くやって無かったのです。…この鳴らないピアノを弾かされた友人は、会を主催したスタッフ(?)に「ホロヴィッツはこのピアノを弾きこなす!」と言われたそうです。…誰なの?そんなでたらめを言う奴は!  また、表面が軟らか過ぎるハンマーで鍵盤を強く叩くと音は詰まります。

(14)詰まった音

詰まった音は、欲求不満になるばかりでなく  心地良くありません!  詰まった音は、どのような現象によって出るのでしょう。  ピアノの詰まった音を検証してみましょう。

調律が悪いと  音が詰まる場合があります。ピアノの弦は、1つの音に  1本  2本  3本の3種類があります。1本弦と2本弦は、調律が狂っても  音は詰まりません!  3本弦の合わせ方で  音が詰まる場合があります。3本弦の調律は、1本目(基音)に2本目を合わせ、合わせた2本に3本目を合わせます。では、詰まる調律は、基音に2本目を合わせた時、まだ微妙に合ってないのです。この合ってない2本弦に3本目を合わせると  未熟な調律師は、音その物を消してしまいます。よって音が消える為に詰まったように聞こえるのです。  逆に伸びる調律があります。

ピアノの弾き方で、音が詰まる場合があります。コンサートピアノは、タッチのコントロール性を高める為に弦にギリギリまで  ハンマーを近付けます。このようなピアノを押し付けるようなタッチで演奏すると弦振動を止め  音が消える為に詰まったように聞こえます。

最後に整音が悪いと音が詰まります。ハンマーの大きい中音域では、弦跡が長く付きます。このょうなハンマーのトップだけを整形し、弦跡が更に長くなり、整音によってトップを軟らかくしていくと  音が詰まって来ます。

調律師を変えて下さい!

(15)伸びる調律

物理学を用いて調律を解き明かしましょう。調律は、基音弦に対して合わせる弦があります。原則、基音の高さに調律する弦を合わせます。調律は、この2弦を同時に鳴らします。その時、2弦に干渉が起こります。この発声するビートを聴きながら調律します。2弦のピッチの差が1Hzでは、1Hzのビートが発声します。そしてビートには、立ち上がりと立ち下がりがあり、立ち上がりを表  立ち下がりを裏と表現します。そして、弦振動は永遠では無く、減衰して行きます。この減衰に対してビートの表だけを出すように合わせると  音は太く伸びるように聞こえるのです。

前記の「詰まった音」で、音が消える現象を解説しましょう。最初に調律した2弦に微妙なズレが出ている場合、干渉を起こし、増幅したり減少したりの緩やかなビートが出ている筈です。これに3弦目を合わせ、ビートを消すと、音も消えます。ビートにビートをぶつけ…ビートを消すことができます。この時、ビートの裏表が丁度重なり、互いに干渉を起こし、音が消える現象が起こります。調律師はビートが消えると  音が合ったと判断します。これは、チューニングピンの回し方に問題があるのです。調律師は、3弦1音の調律で、最初の2弦を合わせます…。3弦目を合わせる時には最初の2弦にズレが生じたのです。このような調律は、持ちません!  コンサートの途中で、調律を拾い直さければ、ならなくなります。

一流メーカーのピアノは、一度完全に安定すると  2~3ヶ月は狂いません!

(16)美しい音

ピアノの持っている音を何処まで引き出すことができるか…が、その調律師の技術です。美しい音を発声させるには、如何に弦を振動させるかに掛かっています。弦を振動させるのは、ハンマーフェルトです。ハンマーフェルトを理想の音が発声するように作って行きます。これが整音技術です。理想の音とは、その弦の持っている全ての倍音をバランス良く発声させることです。

そして、純粋に倍音だけを発声するように作った楽器が、ベヒシュタインやベーゼンドルファーです。そして、倍音を更に増幅し音に厚みを加えたのがスタインウェイです。ヨーロッパのホールでは、どうもスタインウェイはうるさいらしく、音を殺されて居るのをよく耳にします。日本でも近年、同じ傾向があるようです。ピアノの設計者が意図した音作りをする調律師は稀少ですね。

(17)弾き易いピアノ

弾いている違和感を感じず、出したい音が出せる楽器、これが弾き易いピアノです。  ピアノを弾き易くするには、鍵盤の表面から ペダルまでに 160を越える調整作業があります。これらの1部を紹介しましょう。

※鍵盤の表面

ピアノを弾く際、指は鍵盤の表面を微妙に滑ります。その時、鍵盤と指との間に丁度良い摩擦が必要です。滑り過ぎても滑らなくてもピアノは弾きにくくなります。白鍵盤の素材は、象牙、セルロイド、アクリル、人工象牙とあります。これらに対して指が、乾燥している時と緊張して湿っている時等により摩擦が変わります。1番扱い易いのが、象牙鍵盤です。次がセルロイド。ホロヴィッツはセルロイドを使っていました。その鍵盤の表面に油膜をつくり、摩擦を下げていました。セルロイドは、油と相性が良く、適度な摩擦で弾き易く、消耗にも強いのです。セルロイドの難点は変色します。  1975年のワシントン条約により象牙が輸出入禁止になり、ハンブルク・スタインウェイ社もアクリル鍵盤に変えました。弾き込んだアクリル鍵盤は弾き易くなります。1番扱い辛いのが人工象牙鍵盤です。これを開発したメーカーの意図が分かりません!  開発者は、ピアノが弾けませんね!

※鍵盤

鍵盤には摩擦箇所が他に6箇所あります。これらの摩擦は湿度が高いと付いて来ます。鍵盤に摩擦が付くと途端に弾き辛くなります。 また、6箇所はそれぞれに摩擦の処理法が違います。これは、速く動く箇所、ゆっくり動く箇所の違いに  状態保持性を合わせたものです。そして、これらの摩擦はゼロに近い方が弾き易くなります。しかし、ゼロでは、雑音が出ます。これは、正常ならゼロにはなりません! 摩擦ゼロは、ガタです。修理が必要です。

※鍵盤の高さ

鍵盤の高さは、弾きはじめの重さに関わります。これは、鍵盤の高さを変えることにより鍵盤の傾きが変わります。鍵盤の傾きによって 鍵盤初動の抵抗が変わります。止まっている鍵盤を瞬時に動かす時に発生する慣性の抵抗に因る現象です。鍵盤が高いと初動が重くなり、鍵盤が低いと弾き終わりに抵抗が付きます。鍵盤の初動は、軽くても重くても弾き辛くなります。丁度良いところは、設計寸法です。しかし、ピアノが傾いている場合  床が直せない場合は、弾き易い寸法に変えます。床を直すと音が悪くなると思われる時  ピアノを変えます。逆にわざとピアノを傾けることがあります。殆どのピアノは傾けたい方向に傾いています。建築方と重力による床のたわみです。稀に逆に傾いているピアノがありました。これはとても弾けません!傾きは重要です!

※鍵盤ならし

鍵盤は長年使用で左右に傾いたり、前後に曲がったりし、でこぼこになります。当然でこぼこでは弾けません!鍵盤は真平らに面を合わせます。

※鍵盤の深さ

鍵盤には丁度良い深さがあり、やはり、深くても浅くても弾き辛くなります。

※鍵盤の下のクッションクロス

このクロスには、数種類の材質があります。クッションの固さを変えることで弾き心地を調整します。例えば、ストンのタッチは論外ですが、軟らかいクッションでないと指を傷めます。粘りのある重いタッチには、固いクッションが正解です。軟らかいクッションとタッチがはっきりせず、音のコントロール性が落ちます。

鍵盤ガタの予防

鍵盤は、鍵盤中央のバランスピンと手前のガイドピンに入っています。そして弾く度に両方のピンを擦ります。鍵盤はピアノの顔です。これが、ガタに成っては、台無しです。調律は、この両方のピンを磨く為にもあります。沢山使用するピアノは、頻繁に鍵盤ピンを磨かなければなりません!  ピアノのガタは、ここから、始まります。調律が良ければ、ピアノは狂いません!  しかし、ピアノが狂わなくても  鍵盤ピンは、磨かなければ調子を崩します。世間には、10年位の使用で、鍵盤ガタに成っているピアノが多いです。鍵盤には、ブッシングクロスが貼ってあり、交換修理可能ですが…  鍵盤ピンを磨いていれば、磨耗しません!    その前に  鍵盤ブッシングクロスが磨耗するような状態では、とても弾き辛い筈です。  わざと弾き辛い状態を好まれる  音楽大学の先生がいらっしゃいます。  しかし、弾き辛いピアノでは、音楽の可能性が乏しく、イメージも湧いて来ないと思います。また、弾き辛い状態は、無限にあります。重くても軽くても浅くても深くても鳴り過ぎても鳴らなくても鈍くても敏感過ぎて

も固くても軟らかくても…  弾き辛いのです。ピアノは 160項目のどの箇所に不調が有っても弾き辛くなります。そして、弾き易いピアノは、これらの真ん中…  丁度良いところにあります。そうです。弾き易いピアノの状態は、1つです。重過ぎるピアノに慣れても軽過ぎるピアノが弾けないでしょう。…弾き辛さを経験するには、無限台数のピアノを用意しなければなりません!  弾き易いピアノで、自分だけの音楽を見つけて下さい!

※メーカーの出荷整音

メーカーでは、ピアノ出荷の前に 見越し整音を行ってます。

浜松のピアノ工場で、ある音楽大学のピアノ選定に立ち合われた先生は、係の方に「どのピアノも音がモコモコしていて、使えない!何でこんな音なのか?」と訪ねたら、メーカーの方は「クレームが来ないようにしているのです。」と言われたそうです。  おそらく、この先生は、良い響きのイメージを持って、ピアノ選定に行かれたと思います。  …メーカーの整音技師を代弁すると「今、丁度良い音だと、1ヶ月後には音が荒れ、クレームが発生する!」と言いたいのです。  私から言うと、そもそも見越し整音には無理があります。整音は行き過ぎると…  音量と音質が低下します。この状態で、音楽には使えないと思います。ピアノが良い状態であれば、タッチにより、色んな音が出せるのです。  …このようなモコモコピアノでも 弾き込むと音が出て来ます。 しかし、同じようには出て来ません! 1ヶ月後にはバラバラになります。 弾き斑? いいえ、整音斑です!

どうも、ピアノ設計担当者と  現場の調律師に食い違いがあるようです。  そんなにハンマーに針を入れるなら、ニューヨーク・スタインウェイ社のように 初めから軟らかいハンマーを製造すれば良いと思います。

そして、現在の新しいピアノは弾き込むと  音が荒れるのは当然なのです。 ハンマーが固いからです。 音が出て来たら、整音によって軟らかくします。 音が出る前に軟らかくするから、モコモコになり、嫌われるのです。  しかし、使用量にもよりますが、早ければ1ヶ月で整音が必要です。 これは、クレームにはなりません! 当然だからです。 以前に、あるメーカーの高級ピアノの調律を依頼された時のことです。お客さんから「弾き込んでも鳴るようにならない!何とかして欲しい!」と言われました。  これは、出荷整音ミス?  ハンマーに弦跡がくっきり付いているのに  音に芯がありません! 仕方ありません!やりたくない作業のハンマー整形をしました。ハンマートップの軟らかいフェルトを削り取る作業です。このピアノは、ハンマーが大きくて鍵盤重量も重く…  削れると思いました。 (削れば音は出ます。しかし、けして綺麗な音ではありません!) 当時は、何処のメーカーも競って 大きなハンマーを付けていました。パワーを得る為です。  この頃

、このメーカーでは、ピアニスト・リヒテルの好みが、流行っていました。リヒテルは少し過ぎた整音を好みます。少しです。音のレンジを広げた、整音法です。pp~ffが楽に出る整音法です。このメーカーのトップ整音技師は、この整音法を教えていないのでは!?  このピアノの音のレンジは ppp~mfです。フォルテが出せないピアノになっていました。  ニューヨーク・スタインウェイは、最もボディーの鳴るピアノです。先程のメーカーのピアノが、ffなら、 fffが出るのです。  しかし、前にお話した、ホロヴィッツのピアノのフォルテが出せない!と言うのは、明らかにハンマーに原因があります。

インシュレーター

インシュレーターは、ピアノに履かせるキャスターの輪止めです。このインシュレーターの種類によってピアノの音が変わります。インシュレーターが必要な 家庭用グランドピアノの音の変化をお話ししましょう。グランドピアノであれ、家庭では、大音響で使うことは少ないと思います。大半の家庭では、音を少し抑えた設定で使われています。では、音を少し抑え、美しい音にするインシュレーターを紹介しましょう。今までにグランドピアノ用プラスチック製は、6社から出ていました。この中の1つに  音をとても綺麗に響かせるプラスチック製インシュレーターがありました。柔らかめの素材でしたが、残念ながら、この製品は、4年前に廃盤になりました。廃盤理由は弱いと言うことでした。このメーカーは同じ材質ですが、形を変えて製造しています。しかし、新しい形の物は、響き過ぎ、音が悪くなりました。廃盤になったのと同じ様な形の他社製品があります。こちらは4年前に開発された新製品ですが、音が詰まります。この詰まるインシュレーターを製造したメーカーの前製品は、よく鳴りますが、綺麗な音ではありません!材質は硬いベークライトで

す。このベークライト製は廃盤になってます。  前記の音が詰まるインシュレーターですが、防音室で、遮音が強く、大音響のお客さんがいます。ここに詰まるインシュレーターが丁度良い響きにして呉れました。詰まるインシュレーターも使い道があるのです。音が詰まるか、伸びるかの違いは、インシュレーターの床面に接する裏の形にあるようです。そして、音を良くする形は、インシュレーターのキャスターを受ける器の形に因るようです。

ゴムのインシュレーターを検証しましょう。ゴムのインシュレーターに乗せると響きが増します。これは、ゴム製は厚みがある為にピアノが高くなります。よって、残響が増えました。音の伸びはやや詰まります。音量は、直接音がやや下がりますが、残響が増した為差程変わりません!  階下には、床が木のフローリングの場合、1…直接置く、2…プラスチック製インシュレーター、3…ゴム製インシュレーターで比較した結果、ゴム製に僅か効果があります。  しかし、プラスチック製インシュレーターの下にカーペットを敷くとゴム製よりカーペットの方が効果が出ました。1番階下にやさしいのは、畳の部屋にプラスチック製インシュレーターでした。その上は防音室でしょう。

キャスター

ピアノは、キャスターの向きで鳴り方が変わります。特に大きく変わるグランドピアノのキャスターの向きについてお話しましょう。

普通、グランドピアノには、脚が3本あります。手前に2本と奥に1本です。キャスターの向きを変えてみて下さい。手前の2本は、高音域と低音域の音の鳴り方が変化します。中音域を変えたい場合は、奥のキャスターを回します。何故、音の鳴り方が変化するのでしょう。これは、ピアノのキャスターの設置面がピアノの脚の真下で無く、脚を通じてボディーの緊張が変わるのです。3つのキャスター、それぞれに音の伸びる向き  音の詰まる向きがあります。この向きは、ピアノの大きさやメーカーを問わず、共通しています。全てのグランドピアノの弦の向きが同じだからだと思われます。また、コンサート会場のステージ上も 家庭の小さなレッスン室でも共通して 同じ向きが 心地よいのです。

また、このキャスターの向きは、作曲家を問わず、同じ向きで良いようです。

ピアノの向き

ピアノの向きを変えると響きが変わります。コンサート会場のステージ上にピアノを真っ直ぐ設置すると  鍵盤の位置を境に客席からステージに向いて、右手の客席の音がやわらかく、鍵盤から左手の客席の響きがかたくなります。  これは、ピアノから音の出る方向の為に起こる現象です。ピアノをステージ上に真っ直ぐ設置すると音はピアノから出て行きピアノに帰って来ます。

では、客席から、鍵盤の見える方向に少し向きを変えてみます。すると、音は帰って来ず客席を回ってます。よって、やわらかくなり、鍵盤を境に左右で音質が偏って居たのが、無くなり、右手の席も左手の席も同じに聴こえるではありませんか!  客席から、ピアノを振ったのが分からない位少しですよ!  振り過ぎると音がボケます。経験して下さい。

ピアノの位置

ピアノの位置は、5mm移動しても響きが変わります。もちろん、響きが分からなければ、移動しようがありませんが、経験して下さい!  どんな部屋でも、良い響きの位置は、一カ所しかありません!そこに移動して下さい。ピアノを買い替えたようになります。これだけは、調律では、変えられません!  ピアノが2台あると難しくなります。この場合、部屋が広ければ可能です。移動して下さい!何倍も良くなります。

調律師から見たピアノの弾き方

ピアノの音の出し方は、強弱と速さです。

色んな音が出るように音作りをすると  最大音量には雑音が少し混ざります。この雑音をできるだけ取り除くのが整音作業ですが、音が出来上がるまでは、雑音を伴います。

 では、音作り(整音)の過程からお話しましょう。

最初は、弦跡の無い状態での音作り…  これは、新品や  新しくハンマー交換したばかりの音作りや  ハンマー整形をやり過ぎた状態での音作りです。  この状態からの音作りで、ミス無しの完璧整音での発音性能は、初っぱなは、ppp〜fの状態でffが出ません!  ここから弾き込むことにより弦跡が微かに付いて来て、pp〜ffになります。しかし、ffは、まだ出し辛く、雑音が混ざります。 この頃、整音で雑音を取り過ぎると pppは楽に出ますが、ffが出なくなります。  新しいハンマーや丸坊主のハンマーでは、音のレンジが狭いのです。  そして、更なる音作りはピアノの弾き込みと 整音作業です。 毎日4〜5時間の弾き込みで、そのハンマーによる 最高性能に達するのに  4〜6ヵ月掛かると 思います(ある程度の弦跡が必要なのです)。その間2〜3回は整音が必要です。

 では、弾き方による発音をお話しましょう。

 強弱による 音の発音性能…

弱いタッチから強いタッチまでで、音に成らない pppから、綺麗に響くpp〜mp、弾き方により変色するmf〜ff、 fffが綺麗に出せるのは、史上最高のピアノだけです。 fffは、無理やり出さないと出ない為に  通常 綺麗ではありません!

 では、弾き方により変色するmf〜ffについてお話しましょう。

mf〜ffは、強く弾く為、タッチにより変色します。変色の幅は、綺麗に伸びる音から、詰まる音までが、発音可能です。  詰まる音は、音楽的で無いので、その1つ手前までで、音楽を楽しんで下さい。

 では、音が変色する原理をお話しましょう。  ピアノは弾き方により、ハンマーが弦に接触する強さの他に  ハンマーが弦に触れている時間が変わります。同じ強さでも接触時間差により変色するのです。そして、接触時間が長過ぎると音が詰まります。 音が詰まる原因は、弦からハンマーが一時的に離れないない為に発音障害を起こすのです。 また、これを上手く利用し、例えば、ベートーベンと  ショパンを弾き分けることができるのです。

調律師から見た  作曲家に合わせたピアノの音作り

ピアノは、弾き込みによって鳴って来ます。  ハンマーフェルトの弦との接触面は、弾き込みにより軟らかいフェルトが消耗し固い部分が出て来ます。と同時に弦との接触面が増し、弦跡が付いて来ます。  またこれは、整音法により、弾き込みによっての鳴って来方(変化)に違いが起こります。  そして、ピアノの鳴り方には、好みもありましょう。

新しいハンマーを最初、pp〜mf (初期整音)に整音した状態から、弾き込みにより p〜f に鳴って来ます。これを再び整音により pp〜f (中期整音)に抑えます。そして、更に弾き込みにより p〜ff に鳴って来ます。  作曲家リストの曲が弾けるピアノに調整するには → この鳴って来たピアノを更なる整音作業により、 pp〜ff (完成整音)に抑えます。 そして、再び鳴って来たとき p〜fff にパワーアップして来ます。これでリストの曲が鳴り響きます。  この整音法は、最大音量を下げないで、ピアニシモが容易に出せるようにして行きます。すると、フォルテシモも綺麗に響きます。弾き込みと特別整音法によって音作りが完成します。  整音ミスが1つでも有ると  そのハンマーからは、もう、パワーが出せなくなります。

新しくハンマーを取り付け、毎日4~5時間の弾き込みにより、1ヶ月毎に整音をしながら、4~6ヶ月で完成します。

ショパンやドビュッシーを弾くなら、完成整音直後の弾き込む前の状態 pp〜ff で美しく響きます。

ベートーベンを弾くなら、どうでしょう。  ベートーベンのppは、ペダルを使って下さい。  pp〜f の音作り中期整音段階を弾き込みにより p〜ff に鳴り出したところで 完成です。

モーツァルトも p〜ff のベートーベン用をモーツァルト弾きして下さい。

後は、応用です。

ピアノの音作りは、上記のように行います。

では、ピアノリサイタルの時、どのようなピアノを求めるか?  これは、ホールに常備されているピアノでは無理が有りますね!

また、1台のピアノを2色に  予め、音作りをすることも可能です。  3色は無理です。ピアノを2台  用意して下さい。

では、整音によって針が入り過ぎた(ミス整音)ピアノで fff を求めると  どんな現象が起こるでしょう。  ハンマーフェルトは、軟らかくなっている為、弦に激しく(fff)ぶつけられ  潰され  弦に張り付きます。この為に弦は、発音障害を起こし、音は詰まります。  このようなホールのミス整音ピアノに当たった場合は、無理な音を求めず、曲全体のボリュームを落としましょう。  また、このようなピアノを復帰させるには、弾き込みと整音のやり直しに数ヶ月掛かります。

※調律師によるピアノの性能

ピアノは、調律師によって、20倍以上の性能差が開きます。  ある演奏会場のスタインウェイ・コンサートグランドピアノより  ある幼稚園のヤマハ・アップライトピアノの方が、良い響きです。  どちらも  30年以上使われています。スタインウェイ・コンサートグランドピアノの調律を担当している調律師に聞いたら、「ここの施設に修理予算が無いから、修理出来ないんです!」と言っておられました。  一方、幼稚園の先生方には「これらのピアノは、後30年以上使えますよ!」と話しをしたら…  その幼稚園の若い先生は「30年も 持って貰ったら困るわ!」と 仰られました。 その証拠に  今年は、その幼稚園から 調律依頼が来ていません!  調子が良いと 調律させて 貰えないのです。  ある調律師の先輩は「1年後には、狂うように調律するのだ!」と 言っておられました。  何だか、場違いのところだらけのようです。  ピアノは、人のこころを癒せる楽器です。本物を知って頂けたら、幸いです。

ピアノの大切な部分

ピアノのボディーは、出て来る音の音色を作る大切な部分です。そして、次に大切な部分は、ハンマーです。 ハンマーは、ピアノの音質を左右する大切な働きをします。

スタインウェイでも  ハンマーの状態が悪いと… 酷い音になります。 音楽家達の間では、スタインウェイピアノの音が悪くなることを「ヤマハ化した」と よく言われます。 ヤマハが けして悪い訳ではありませんが、整音状態の悪いスタインウェイピアノをヤマハ化した… と呼ばれています。 これは、ヤマハの調律師が整音できないことを意味しています。 ヤマハのピアノの状態が悪い時には「この会場にはヤマハしかないから…」で、調律が悪いだけなのに… ピアノその物が悪いことにされています。

スタインウェイ社では、1979年から、製品その物のコストダウンが始まっています。 近年、スタインウェイが、更に新しくなり、大切なハンマーヘッドの行き過ぎたコストダウンがなされました。部品代から換算して、良い時代の5割以上のコストダウンです。このハンマーヘッドからは、以前の音は、もう、作れません!  スタインウェイのハンブルク工場に行った時のこと…  ハンブルク工場の整音技師のトップに「以前のマホガニーウッドのハンマーと 新しいメイプルウッドのハンマーとでは、どちらが貴方は好きですか?」と 質問してみました。 その質問に対する彼の答えは「以前のハンマーと 何ら変わらない!」 でした。 これは、彼が 本当に 言いたい 事を 言えないのか?  彼の 整音技術を 疑う 事に なるものです。

ハンブルク・スタインウェイ社は、1968年〜1978年に最も固いハンマーヘッドを装備しました。そして、1979年から、ハーフアンダーで、フェルトの質を落とした製品に変わりました。そして、1990年には、ハンマーヘッドを小型化しました。そして、現行のメイプルウッドハンマーです。

1990年製の小型化されたマホガニーウッドハンマーと  現行のメイプルウッドハンマーとを  同じ1988年製Dモデルに装着し、丁寧に整音してみた結果、明らかに音質に違いが出ました。

ハンブルク・スタインウェイの音に  深みのが少なくなった原因の1つに  ハンマーヘッドが変わったことが上げられます。

ピアノのボディーの素材と塗装

ピアノの音色は、ボディーの材質による木材の音です。 響鳴板と一体となって、弦振動を音に変える響鳴箱です。 そして、響鳴箱に薄い皮膜を被せることにより、鳴りを調節します。

では、ニューヨーク・スタインウェイの素材を紹介しましょう。 ニューヨーク・スタインウェイのボディーは、乾燥した固いメイプルの表面に 薄いマホガニーの化粧板を被せ  その上に 薄いラッカー塗装を施しています。 ニューヨーク・スタインウェイは、バランスのとれた良い響きです。 ハンブルク・スタインウェイの近年の製品は、ニューヨーク・スタインウェイ社から 取り寄せたメイプルをボディーに使い、その上に薄いマホガニーの化粧板を被せ、更に硬いウレタン塗装を施しています。  近年のハンブルク・スタインウェイは、ニューヨーク・スタインウェイと似ているではありませんか!  それなのに 出て来る 音は、随分違います。  何が違うのか検証してみましょう。

この響きの違いは、ボディー塗装(皮膜)の違いです。 近年のハンブルク・スタインウェイのボディーは、固いメイプルの素材の上に硬いウレタン(プラスチック)を被せたものです。

では何故、ハンブルク・スタインウェイ社は、ニューヨーク・スタインウェイと同じにしないのか?  これは、明らかに 製品になった時の 見たくれ です。 ラッカー塗装では、安っぽく見えますね。 音よりも 見たくれを優先にする 現在のハンブルク・スタインウェイ社の考え方です。 以前の最高のピアノを作ろうとした  亡きスタインウェイ氏の考え方に反するものです!

では、ハンブルク・スタインウェイ1968年製の同じウレタン塗装の製品を検証しましょう。

ボディーの素材は、ブナとマホガニーの合わせです。 このブナとマホガニーの合板に硬いウレタン塗装は、合っています。 メイプルよりは少し軟らかいブナとマホガニーの合板に硬く薄い皮膜を被せることにより、鳴りが増しました。 とてもバランスの良い響きです。 ハンブルク・スタインウェイは、1979年から  響鳴板の塗料が、ワニスから、ウレタンに変わりました。硬いウレタンは、響きますね! しかし、音質は落ちました。

スタインウェイ1965年製Dモデル(ハンブルク製)

2008年12月2日

史上最高のピアノを求めて、日本ピアノサービスの ばん田さんの 大切にしていた1965年製スタインウェイDモデルを譲って貰いました。 このスタインウェイDモデルは、ニューヨークで、響板を入れ替えたハンブルク製で、日本ピアノサービスのレンタル用看板ピアノでした。(現在、日本ピアノサービスでは、ニューヨーク・スタインウェイ社の貸し出しナンバーの付いた ニューヨーク製Dモデルをレンタル用に使用しています。)  

近々、自宅のレッスン室に 2台のスタインウェイDモデルを並べます。


次の日、5ヵ月振りに 自宅のスタインウェイDモデル1968年製を調律しました。 殆ど狂っていませんでしたが、ばん田さんに ピアノを見せて頂き 調律したくなったのです。 鍵盤オサ枕に厚紙(第2ポジション=このピアノは、音が荒れて来た場合に整音をしないで、ハンマーを一律に厚紙分右側に移動し、ソフトを掛けられるように設定しています。ピアノは、弾き込みによって、調律は狂わなくても音は出てきます。そして、荒れます。ピアノのハンマーの表面が消耗し、固い部分が表出するからです。厚紙を挟み、ハンマー中央から、右に寄せた この弦合わせ位置をハンブルク・スタインウェイ社による正規弦合わせ位置に調整しています。)を挟んで使用していました。 厚紙を外して弦合わせ位置をハンマーの中央に戻し、調律と整音をしました。 音は満遍なく荒れていて、中音から最高音までの全てのハンマーのトップに針を入れました。 音量は、ソフトペダル無しで pp〜ff が出せる設定です。 fは割と綺麗に響くようになりましたが、ffの音質にはまだ斑があり

fffは出ません! ミス整音の後遺症です。 でも、今回の調律により、更にグレードアップしました。 整音の目的は、ソフトペダル無しで ppp〜fff の音の幅を出すことです。 そしてこれは、史上最高のピアノだけが可能なのです!  新しく入る ばん田さんの 1965年製Dによって、自宅の1968年製Dが更にグレードアップすることでしょう。 1968年製Dは、自宅に入って7ヵ月になりますが、弦跡はまだ殆どありません!  無闇な整音と整形により4割消耗したオリジナルハンマーです。 パワーは、もう少し出ると思います。  新しく入る1965年製Dは、完全調整により、更に2倍以上の性能アップが見込まれます。 「この1965年製Dは、史上最高になる確率が高いと感じます。」  現時点では、まだ自宅の1968年製Dの方が数段上です。

 では、楽しみにしていて下さい。

2008年12月13日

ばん田さんのスタインウェイDモデルが、千葉市花見川区の株式会社伸和ピアノ運送に入りました。このピアノ運送会社は、ピアノ搬入技術が高く、信頼できる業者です。このピアノ運送会社の手を借りて、いよいよ、12月17日に我が家に入る予定です。

名器ストラディバリウス化したスタインウェイピアノ

現在のハンブルク・スタインウェイ社にも  自社の1965年付近の音が出せないようです。ハンブルク・スタインウェイ社は、自社製品の企業秘密で有る…スタインウェイシステムを知っています。当然でしょうが… では何故、スタインウェイのボディーが鳴らなく感じるのか?  同じ設計で製造しても音を響鳴するボディーが音を受け入れなければ、良い音は出ません!  現行スタインウェイ(ニュースタインウェイ)と 1965年製スタインウェイの違いは、ボディーの鳴り方です。  ニュー・スタインウェイのボディーは、高次倍音は良く鳴りますが、深みの音辺りの倍音の鳴りが良くありません!  また、1968年製スタインウェイDモデルは、ミス整音によって、ハンマーが軟らかいにも関わらず鳴ります。  ニュー・スタインウェイにミス整音をしたら、そのハンマーは、ボツです。二度と鳴って来ない!  これは、明らかに ハンマーの 材質が違います。 ピアノ製造法改革に伴い 木材や塗料やハンマーを変えたようです。 ニュー・スタインウェイの音質が

変わったのは、ボディーの材質や塗料が変わった為です。

ニュー・スタインウェイが、最も良い音を出すのは、新しくハンマーを取り付け、弾き込みにより音が出て来る4ヵ月目から、次のハンマー整形が必要になる迄の期間だけです。 毎日8時間  コンサートで使用して2年間です。  そして、ハンマー整形してもう一度立て直すか…、ハンマー交換になります。  ハンマーの寿命が、4分の1になりました。  これは、ハンブルク・スタインウェイ社が、意図的にやっているのでしょうか?  そうでは、無いようです。 1927年製スタインウェイのハンマーは、小さいです。 大ホールで 演奏会に使われるようになり、次第にパワーを求めて進化して  ハンマーも大きくなったのです。  しかし、大きなハンマーは、整音が難しく…  古いレコーディングを聴くと  スタインウェイの音は、詰まっていることが多いです。  結局は、整音技術如何のようですね!

スタインウェイシステム

スタインウェイシステムは、ピアノの鉄骨と響鳴板と支柱が一体となった  音の増幅装置です。 弦の張力を利用し、響鳴板に張りを与えます。 弦を張って張力を掛けると響鳴板が盛り上がります。 弦圧が増すと響鳴板圧も増すように設計されています。 響鳴板の適度な緊張によって、音は増幅されます。 スタインウェイの場合 調律のピッチを上げても 響鳴板沈下が起こらないシステムなのです。  ピアノの音が詰まる原因の一つに 響鳴板沈下がりがあります。  スタインウェイの音が伸びる最も重要な秘密です。  

響鳴板の張り具合を確かめる方法に  ピアノに湿度を与えた場合の音律変化試験法があります。 響鳴板に張りがある場合には、中音から次高音に掛けて音律が変化します。 中音の終わりが変化するのは、響鳴板の張りではありません!  これは、木目の方向に因る響鳴板自体の伸び縮みです。



       

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ピアノ調律師

調律

調律とは、ピアノの調子を整えることです。 作業内容は大きく分けて、調律・整調・整音・ピアノ移動・クリーニング・修理等……の 160工程以上からなります。そして、全ての作業を一通りこなすには 2週間~ 1ヵ月を要す  深い内容です。  それらの作業の中から、必要な作業を抜粋して行う、ホール等のメンテナンス(保守点検)と全ての作業を行うオーバーホールに別れます。調律作業は少なくとも2~3日掛かるのが一般調律師の作業内容です。  コンサート当日の調律が1~2時間で終わるのは、予め定期的にメンテナンスを行っているからです。 しかし、年1回の調律を1~2時間で行う調律のエキスパートも存在します。 次は、この特殊技能を持った調律師についてお話しましょう。


調律のエキスパート

(1)調律時間

調律の中の調律(チューニング)について

チューニングとは、音律を合わせる作業です。ピアノには弦が張ってあり、チューニングピン(糸巻き)で巻き取る形で音程を調節します。チューニングピンは、チューニングハンマーによって回します。チューニングピンには安定位置があり、そこに定まって無いと狂います。そして、通常、チューニングピンが安定位置にあるのが、調律前です。チューニングは合わせたいだけの量  チューニングピンを回す作業です。…ここからが重要!…チューニングはチューニングピンの安定位置から、チューニングピンを必要な量だけ回します。また、チューニングピンを一発で回さなければ、そのチューニングピンの安定位置を見失います。チューニングをやり直しては、後から狂いが出ます。

要するに  精度が高く狂いにくい調律は、調律時間が短いのです。 約230本のチューニングピンを20~30分で合わせます。

(2)ピアノの不調箇所が見える。

調律作業 160工程の内、何が1番必要かを感じとることが先決です。ピアノにとって不必要な作業は、調律時間が無駄になるだけでなく、返ってピアノの調子を悪くします。

…要するにピアノ調律は、必要な作業だけを素早く調整し、余計な調整をしてはならないのです!

(3)響きの調整

ピアノの音を理想の音に近付ける調整です。これは、調律3←→7ピアノ位置です。ピアノは、5mm移動しても、全く違う響きになります。バランスの良い響きに設置し直すのも調律作業の1つです。

(4)調律師の為のピアノ練習

調律師は完全調律されたピアノを条件反射的に常に練習します。  コンサート会場等で調律前に試弾し、上手く弾けなければ、ピアノが不調なのです。この弾きにくい違和感を感じることにより、不調箇所をいち早く調整します。感じる不調の種類は 160以上ありますが…、その中で最も弾きにくい症状を強く感じます。そして、その不調を解消すると 次の不調箇所を感じます。このように次々と素早く調整し、ピアニストの到着を待ちます。

定期的なメンテナンスにより  良く調整されたピアノでも  弾きにくい症状は幾つもあります。

(5) 仕上げ調整

※摩擦のコントロール

仕上げ調整の1つに摩擦のコントロールがあります。ピアノの調律作業は 160工程を越える項目があり、それぞれの工程の中には、数ミクロンの違いで、音やタッチが変わります。目で見る調整には限界があります。例えば、2台のピアノが全く同じ寸法に調整して有るとします。しかし、2台は、全く同じ摩擦にはなりません!  1方は、タッチが浅く感じ、もう1方のタッチは深く感じることがあります。この2台のピアノの違和感解消は、1方は、摩擦を上げ、もう1方は、摩擦を下げます。この判断は、試弾によって行います。判断して、処理するまで、数分です。

上記の調整を深く感じるから浅くし、また、浅く感じるから深く直しては、タッチは何時まで経っても良くなりません!

鍵盤ガタの予防

鍵盤は、鍵盤中央のバランスピンと手前のガイドピンに入っています。そして弾く度に両方のピンを擦ります。鍵盤はピアノの顔です。これが、ガタに成っては、台無しです。調律は、この両方のピンを磨く為にもあります。沢山使用するピアノは、頻繁に鍵盤ピンを磨かなければなりません!  ピアノのガタは、ここから、始まります。調律が良ければ、ピアノは狂いません!  しかし、ピアノが狂わなくても  鍵盤ピンは、磨かなければ調子を崩します。世間には、10年位の使用で、鍵盤ガタに成っているピアノが多いです。鍵盤には、ブッシングクロスが貼ってあり、交換修理可能ですが…  鍵盤ピンを磨いていれば、磨耗しません!    その前に  鍵盤ブッシングクロスが磨耗するような状態では、とても弾き辛い筈です。  わざと弾き辛い状態を好まれる  音楽大学の先生がいらっしゃいます。  しかし、弾き辛いピアノでは、音楽の可能性が乏しく、イメージも湧いて来ないと思います。また、弾き辛い状態は、無限にあります。重くても軽くても浅くても深くても鳴り過ぎても鳴らなくても鈍くても敏感過ぎて

も固くても軟らかくても…  弾き辛いのです。ピアノは 160項目のどの箇所に不調が有っても弾き辛くなります。そして、弾き易いピアノは、これらの真ん中…  丁度良いところにあります。そうです。弾き易いピアノの状態は、1つです。重過ぎるピアノに慣れても軽過ぎるピアノが弾けないでしょう。…弾き辛さを経験するには、無限台数のピアノを用意しなければなりません!  弾き易いピアノで、自分だけの音楽を見つけて下さい!

響きの調整

響きの調整は、ピアノの位置の設置です。真っ先に行いますが、ここで、解説します。

ピアノの位置が悪いと  音が詰まったり、逆に大音響になったりします。音楽会でのアンサンブルの設置や音楽室での最適な響きを調整する重要調律作業の1つです。

では、ピアノの位置で響きが変わる原理を解説しましょう。音は音波になり、ピアノから出ていきます。やがて、音波は、壁にぶつかり、1部は、吸収され大部分は、跳ね返ります。この時の吸収率の度合いで、音響が良かったり、悪かったりが起こります。また、跳ね返った音波に音波がぶつかると  干渉を起こし消えます。これが、音の詰まる原因です。  …音の詰まらないピアノの置き方は、跳ね返った音波が、ピアノから出た音波とぶつからないように  設置すれば良いのです。  頼りは、耳です。

音楽室では、干渉を利用し  練習し易い位置に設置します。  以前に起こった例を紹介しましょう。あるお客様が、スタインウェイCモデルを買いました。ピアノの先生と共にショールームで選定し、ボディーの鳴りの良いピアノを選びました。地方に納める為、調律は後日となりました。  そして、いよいよピアノ納入日、お客様から、メールが届きました。  「ピアノが大音響です!どうしたら良いですか?」  私は、感激しました。良い物を選んだ満足感です。お客様には、「心配入りません!調律で調整します。」  …後日、調律に伺い見ましたら、吹き抜けの天井の高い大広間の真ん中にピアノが設置してありました。  スタインウェイCモデルには、大きなキャスターが付いています。床にも傷付けず、楽に移動出来ました。  …部屋を見ると  直感で良い響きの位置が分かります。大きな部屋でも良い場所は1ヶ所したありません!  半年後に引っ越しすると言うので、今回は、大音響の後だし、大屋根を開けて演奏出来るように設置しました。同じ部屋にヤマハのアップライトがありました。スタインウェイ

Cモデルの屋根を全て閉めるとアップライトよりも小さな音になったと思います。

タイミング調整

メーカーの設計基準に調整したピアノでもタイミングが合わないとと弾き難くなります。これは、音の出るタイミングの問題です。鍵盤が底に着くと同時に音が出るのが弾き易いのです。  何故、弾き難くなるか?  音が出ないと次の動作に移れないからです。音の出るタイミングが遅いと指が回りません!  音の出るタイミングが遅い状態を働きが少ないと言います。  では、逆に音の出るタイミングが早いとどうでしょうか?  鍵盤が深く感じ、やはり、強い音のアルペジオ等が、弾き難くなります。これは、発音したのに鍵盤はまだ止まらず動いてます。鍵盤の静止は、次の音を弾く動作に移る軸の足場になります。足場が不安では、音のコントロールが難しくなるのです。

コンサートホールには、タイミングの遅いピアノが多いですね。

ピアノの性能

2006年のショパンコンクールで、ピアノ製造メーカー3社が出品しました。カワイ、ヤマハ、スタインウェイです。これに出品されたピアノに大差はありませんでした。カワイもヤマハもスタインウェイをモデルに製造されています。では、世間のピアノは、どうでしょう。調律により、20倍位の差が出ます。調律次第のようです。  ショパンコンクールに出品された各メーカーのピアノに大差が無かったのは、偶然でしょうか?  分析してみましょう。

ピアノの音は、丁寧な整音と弾き込みによって作られます。細かく観察すると…  音の仕上がりは、カワイ、ヤマハ、スタインウェイの順に良かったと思います。音質はどうでしょう。

カワイの音は個性が強過ぎるように思います。しかし、バランスの良い太い音でした。続いてヤマハは、深い太い音でした。続いてスタインウェイは、それ程良いとは、感じませんでした。調律師の技術が、カワイ、ヤマハ、スタインウェイの順だったのでしょう。

スタインウェイは、自宅の1968年製と比較すると半分以下のようです。  ピアノメーカーは、ヴァイオリンのストラディバリウスのように弾き込まれた良い楽器を何故、出品しないのでしょう。おそらく、古いピアノが良いと言う評価を恐れています。そして、もう1つ、メーカーには、メンテナンス技術が有りません!

センターピン

最近、新しいスタインウェイピアノのハンマーシャンクフレンジセンターピンのガタが多くなりました。  以前は、湿度管理しないスタインウェイピアノにスティックが発生して困っていました。 現在は、湿度管理しないスタインウェイピアノが、丁度良いタッチになり、湿度管理をする事によって、ガタになっています。 ハンマーシャンクフレンジセンターピンが、ガタになるとタッチもペラペラに軽くなります。新しいスタインウェイピアノの湿度管理は、湿度50%が良いようです。しかし、湿度50%以上の湿気はダメです。これは、環境により、差が出ます。楽に湿度50%維持ができるか?  加湿による湿度50%維持が難しいのです。除湿は、除湿機を運転し、湿度50%に設定すれば良いから楽です。しかし、加湿は、湿気が斑になります。加湿オーバーは、危険です!    雨季に湿度50%設定なら、乾季は湿度40〜45%設定にして下さい!

センターピンは、製造時のメッキの段階で、サイズに誤差が生じます。ハンマーシャンクフレンジのセンターピンの規格は NO.21=1.300m/mですが、新しいスタインウェイピアノのハンマーシャンクフレンジのセンターピンは、10ミクロン太い0.310m/mが使用されています。このピアノが、乾燥に因り、ガタになった場合には、レンナー社の5ミクロン太い1.315m/mに交換修理します。  センターピンは、丁度良い抵抗で使用されていれば、50年経過しても、そのまま使えます。しかし、センターピンが緩いまま使用されるとガタが進みます。それに、新しいスタインウェイピアノのフレンジのセンターピン軸受けのブッシングに潤滑剤が無くなりました。以前は、この軸受けにカーボンが充填されていました。

スタインウェイ社は何故、レンナー社にカーボン充填の工程を省かせたのか?  …ガタ修理の際は、カーボンを充填します。センターピンに抵抗を付ける訳ですから、湿気に因るスティック予防とスムーズな動きを求めたものです。  これらも、製品粗悪化の1つでしようか?

ウイペンには、センターピンが3つあります。ウイペン本体を支えるフレンジとレペティションレバーとジャックです。新しいスタインウェイピアノのジャックスティックが十数本有りました。スティックしたセンターピンを抜いてみると1.330m/m(NO.21.5)が入っていました。ハンマーシャンクフレンジセンターピンがガタになる湿度管理されたピアノのジャックスティックです。ウイペン組み立て工場で1サイズ太いセンターピンが混ざっていたと想像しました。

調律の時期と回数

調律作業は、

(1)音律を合わせる(調律)

(2)メンテナンス(摩擦処理)

(3)タッチ調整(整調)

(4)響き調整(ピアノ移動)

(5)音量・音質調整(整音)

の5項目に 大きく分けることができます。これら5項目の作業を総称して 調律と言います。

1回目の調律は、これらの作業  全ての中から、その時  不調が見付かった1部の作業だけを行います。

ピアノは、弾き込まれると変化を起こします。弾き込まれる度に調整が必要になってきます。そして、次の調律時に必要になった作業をまとめて行います。

(1)音律合わせ…  これが、調律のことです。  弦の新しいピアノ程  音が下がります。  湿度変化によっても音律が変化します。ピアノは湿度変化で歪むのです。この為、弦の張り方により 狂いが出ます。湿度を一定に維持されると 音律は、全体的に下がりますが、狂いません!  次回の調律はいつが良いか?…  ピアノの使用状況や部屋の湿度環境により、調律時期に違いがあります。  湿度管理無しの環境では、季節が変わるとピアノの音律が狂います。よって、季節が変わってから、調律を行います。時期を間違えると直ぐに狂うことになります。湿度管理をされても…  エアコンの暖房と冷房で違います。暖房や冷房の使い始めに調律を行います。

(2)メンテナンス…  ピアノ内部の掃除やアクションの摩擦処理をします。ピアノのアクションは、メンテナンスが大切です!  アクション内1音につき  アップライトピアノで 26箇所 計52面   グランドピアノで 38箇所 計76面の摩擦面があり、常時メンテナンスを必要としています。そして、ペダルのメンテナンスもあります。    音律は狂っていてもピアノは壊れません!  しかし、アクションとペダルのメンテナンスを怠ると  ピアノはガタになり傷みます。  ピアノの調律時期や回数は、アクションのメンテナンスの必要な時期や回数です。

(3)タッチ調整  ピアノのアクション部品を整える作業を整調と言います。沢山の作業があります。例えば、鍵盤を真っ平に ならす作業がありますが…  2〜3回目の調律時に行います。鍵盤は、少しでも でこぼこがあると弾き辛くなります。ピアノが完全調律されるには、20回位の調律が必要です。  調律作業 160以上ありますが…  その時 必要な4〜5工程の作業を施しただけで、ピアノは見違える程良くなります。それまで不調だった箇所を調整した訳ですから、当然、良くなります。このように調律を重ねる毎にピアノは良くなって行きます。調律をしましょう。

(4)響き調整…  これは、部屋に対するピアノの位置です。その部屋の中で、求めている音にセットし直します。置き方を間違えると…大音響になったり、音が詰まったりします。ピアノは、部屋の壁から離す程  残響を増します。反対に壁に近づける程  残響が消えて行きます。  ピアノから出る直接音と壁から跳ね返す残響とのバランスで心地良い音にセットもできます。

(5)音量・音質調整…  これらの作業を整音と言います。音量や音質が揃ってないと弾き辛くなります。音量や音質を揃えながら、美しい音に作って行きます。  ピアノは、弾き込まれると音が荒れます。逆に弾かれなければ、止まったままです。現在のピアノは、何処のメーカーもハンマーが固くて  沢山弾かれる方なら、新品から半年位で、最高の音に達します。  しかし、間違った整音をされると…  現在の小さなハンマーは、なかなか復帰出来ません!  その場合は、新しいハンマーを交換するか…  毎日10時間位  弾いて下さい。音は出て来ます。音作りは、弾き込みと整音作業の合作です。沢山弾き込んだら整音をしましょう。良い音に生まれ変わります。




調律作業

整音

(1)ハンマー整形

  ハンマーを触ると音が変わります。音を変える目的を持ってハンマーを触ることを整音と言います。ピアノのハンマーフェルトは、年々粗悪化しています。1965年頃のハンマーフェルトは良質でサイズも大きく、大切に使えば 100年使えます。  ハンマーは、弾き込まれ消耗すると弦跡が付きます。しかし、良い音であれば、ハンマー整形する必要はありません!  弦跡が付き過ぎ、整音をしていくと  音が詰まって来ます。ここで、初めてハンマー整形が必要になります。ハンマー整形は必要分だけを削り取ります。このハンマーを 100年使うように整形して下さい。また、ハンマー整形が必要になる前が1番、整音が安定しています。ハンマー整形直後は音が荒れやすく、整音が頻繁に必要です。

(2)弦合わせ

弦とハンマーとを合わせる作業です。ハンマーを弦の中央に合わせます。ハンマーの左端を少なく合わせ、ソフトペダルの効きを良くする合わせ方がありますが、これは間違いです。ソフトペダルは、踏み方(3段ソフト)により音質を変えることができます。左端を少なくしては、その範囲を失います。また、綺麗なフォルテシモは、ハンマーの中央です!そして、ハンマーの寿命を2倍にする2ポジション方式もあります。

(3)ピッカーリング

ハンマーに針を刺し、ハンマーフェルトの固さを緩め、美しい音にしながら、音質と音量を揃える作業です。この技術が優れていると  ハンマーフェルトの寿命は延びます!

音が分かるなら、無闇なハンマー整形や整音はされず、ハンマーは大きさを保つでしょう。この技術が、ピアノの性能や寿命を大きく左右します。

(4)弦跡調整

ソフトペダル使用の少ないピアノで、弦跡が轍のように付くと…  久しぶりにソフトペダルを使い  弦跡(弦溝)のエッジに弦が当たると雑音が出たり、発音障害を起こします。このような場合にハンマー整形をすると  ハンマーは質量を失い  弦跡はやすりで乱され  ピアノは一気に調子を崩します。…では処理法としての最良は、弦当たりをずらします。このピアノはソフトペダルを余り使わないのですから、別のポジションに弦当たりを移動します。これが2ポジション方式です。ソフト位置ですから、最初はおとなしい音になります。弾き込めば、やがて鳴り出します。弦溝は解放され発音障害は解消して美しい音になります。ピアノの持ち主と話し合って  調整して下さい。

交互に使い分け  ハンマーの寿命は2倍になります。

管理ホールでも使えます。

(注意)  いきなりコンサートには、使えません!  日頃から準備して下さい。

(5) ペダル調整

ペダルの遊びや重さでタッチや音が変わります。1番弾き易いところに合わせます。  これは、足からの違和感が、指に伝わるのです。ペダルが軽いと  タッチも軽く感じます。踏み込みが軽くなった分  鍵盤に体重が乗るのです。逆にペダルが重いとタッチも重く感じます。音が変わるのは、重さの違うペダルを踏むことによりボディーの緊張が変わります。

ペダルの遊びやペダルの高さも  タッチに影響します。  ペダルの高さは、高くても低くても弾き難くなります。  ペダルの遊びは、大きいとペダリングが遅れます。これらは、弾き易いところに設定して下さい。これだけで、何倍も弾き易くなります。

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